今回は、やる気を引き出すコミュニケーションと題して、「影響力」というテーマを考えてみたいと思います。
こんな人にオススメ
- 指導者としての立場にある人
- チームをまとめる役割を担っている人
- モチベーションが上がらなくて困っている人
影響力とは?
「影響力」を発揮するとは、概ね「自分の思惑、意図したことについて、働きかけにより人の心や行動を変える力」と解釈することができると思います。
その働きかけを行う際に、権威(スキル、資格、地位)、テクニック(返報性の原理など)様々な方法を用いることができます。
しかし、外発的な要因による動機づけというのは、得てして「持続」しないことがほとんどです。
「監視がある時だけ、報酬がある時だけ、力を発揮する」となると常に対象者の面倒を見なければいけいない状況に陥ります。
もちろん、こうした方法はマーケティングのように突発的な衝動に働きかけを行う際には非常に有効です。
しかし、今回扱いたいテーマは「やる気を引き出す影響力」の話ですので、この記事でお話しする「影響力」は次のように定義したいと思います。
「対象者が目指すゴールに対し、自主的に行動ができるように促すことができる力」
言い換えると、「内的な動機に気づき、自身で考え、行動することができるように働きかけること」が今回のポイントです。
影響力に関する重要なヒント
具体的な内容に触れる前に、代表的な書籍をもとに影響力に関する一般的な認識にも触れておこうと思います。
これらの参考書籍からは必要なエッセンスや考え方のヒントを得ることができます。
人を動かす[著者:デール・カーネギー]
人を動かす3原則
- 盗人にも五分の理を認める
- 重要感をもたせる
- 人の立場に身を置く
『人を動かす』(原題 : How to Win Friends and Influence People)の著者D・カーネギーは「自己重要感」を高めることが「人を動かす」上で非常に重要な原則と考えています。
前提として、人は誰もが自分を正しいと信じており、自分は価値のある存在でありたいと考えています。
そのため、自分の価値、重要性に気付いた時、人は自ら動きます。
そうした機会を促す方法を「人を動かす3原則、人に好かれる6原則、人を説得する12原則、人を変える9原則」等々、具体的なエピソードをもとにまとめたのが、こちらの書籍です。
批判や否定ではなく、相手の話に耳を傾け、敬意をもって共感や称賛を向ける。
すると、好意的な相手の態度に心を開き、信頼関係が生まれる。
よりオープンな関係性で相手の問題や価値を理解し、それを手に入れる方法を伝えることで人は動く。
私なりの解釈としては、人が動くためには「自信と動機」が必要である。ということが重要なポイントではないかと考えています。
参考書籍:「人を動かす」. D・カーネギー
影響力の武器[著者:ロバート・B・チャルディーニ]
影響力の武器6つの原理
- 返報性:恩を受けたら、返したい
- 一貫性:一度口にしたことは貫きたい、自分の意志に責任を持つ
- 社会的証明:多数派を信頼する、同調意識
- 好意:好意を寄せてくれる人を好意的に思う
- 権威:制服やスーツ、高級車など目にみえて権威を示唆するものに影響を受ける
- 希少性:期限や人数、残数などの限定性、手に入らない可能性があることへの暗示
『影響力の武器』(原題 : Influence: Science & Practice)は社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニによって書かれた著書です。
主に、ビジネス向けにマーケティング等で使われる心理テクニックが多く盛り込まれている内容ですが、前述の『人を動かす』同様に「好意や一貫性の原理」については信頼や信用、その人の価値に迫る心理が用いられています。
その他、「希少性」を用いた、相手の衝動的な心理に働きかけるテクニックについても記されています。
余談ですが、バレンタインデーがビジネスだとすれば「ホワイトデーは3倍返し」と刷り込まれた男子学生は「返報性・社会的証明・好意」をうまく利用され、踊らされていたことになるかもしれません・・・・・。(涙目)
私はこれらを今回の主題に即して「人は自分であれ、他人であれ期待をかけらるとその相手を裏切りたくないと感じてしまうもの」といったニュアンスで読み取っています。
参考書籍:「影響力の武器」. ロバート・B・チャルディーニ
特に「一貫性」については、以前書いた“意思決定”に関するお話に共通するところがありますので、よろしければこちらもご覧ください。
000blogでは「One ofIdea」を一つのコンセプトとしています。色んな考え方に触れて「自分が何を感じるか?」これを読んでくれている人が「何を感じるか?」そんな様々な感性を「全部いいよね。一つの考え方だよね」と受け入れながら、“多様[…]
人が動くために必要な要素
これら影響力に関する権威ある名著から連想できるキーワードを整理してみると、次のようなことが「やる気を引き出すコミュニケーション」をとる上で重要な要素ではないかと考えています。
更に冒頭でお話ししたように、継続的な影響力を発揮するものについては、太字で表記した内容が重要なキーワードになるのではないかと考えます。
- 信頼(自分・他人)
- 動機づけ
- 権威、社会的根拠
- 自信(価値・自己重要感)
- 不安(欠落、損失)
- 自発的な意志
これらのキーワードは書籍『人を動かす』のお話でも触れたように、一貫して「自己価値の重要性」という動機に基づいた心の反応です。
大抵の場合行動ができない時に大きな障害となるのは、目的(動機)が定まっていない、問題をクリアできるほどの自信がない。といったことが挙げられます。
そのため、自発的、継続的に行動を促す要素として、自己信頼感や意思決定・決意に関連するキーワードを重視しています。
加えて、影響力を与える立場の方は具体的な計画やタスクにまで落とし込んで、相談者の課題に向き合うことで行動のハードルを下げることができるものだと考えています。
そうした点も踏まえて、「目的があり、自信があり、やるべきことがわかっている状態」を促すことが影響力を与える上でシンプルかつ重要なポイントではないかと考えます。
・動機の明確化
・自己信頼感
・具体的な計画やタスク
やる気を引き出すコミュニケーション
上手に可能性を引き出してくれる人には共通して言えることがあると思っています。
そしてそれらのテクニックの流れの中には前述した『人を動かす、影響力の武器』のエッセンスが多く盛り込まれています。
ここでは、なるべくわかりやすく解説できるように「職業相談」というシチュエーションを例にしながら解説をしていこうと思います。
①信頼関係
職業安定所などで相談を受ける際は「カウンセラーと相談者」という前提があるため、相談者は自身の課題や悩みをオープンに話す機会として捉えています。
ニーズの掘り下げを行う上では「会話のできる相手」ということは大前提です。
コミュニケーションが上手な人は急に踏み込んだ会話を始めずに、“世間話や相手の人となりについて興味を持って質問し、理解を示しながら”意思疎通が可能な存在であることを暗示します。
そうして、安心できる環境や空気感を用意することで質問に答えやすい場を提供します。
②動機づけ(欲求・必要性)
動機とは?
- 欲求:どうしたい、何がしたい(理想やこれから得るもの)
- 必要性:欠落を補完するもの
行動が早い人は、自身の「内なる衝動と緊急性」をよく理解しています。
欲求とは「すでに充足している上で更に得たいもの」理想や新たな価値です。
必要性とは「不足があるから埋めるためのもの」不安や欠乏を補填し安心感を得るためのものです。
職業相談を例にすると、生活の基盤・金銭的な安定など必要性に関する動機は十分あるものと考えられます。そのため、自身がどのような環境であれば自分の価値を発揮することができるのか、未来に向けて活動的に取り組めるのか?を、重点に会話を展開することが必要になるでしょう。
「あなたは、本当はどんなことがしたいですか?、どんなことが得意ですか?」
こうしたシンプルな質問のように、その人が自分の持っている“欲求や価値”を自身で考えながら答えを導き、自覚できるように質問をしていきます。
そのため、相手の呼吸に合わせるように、時として答えを急かさず、間をとりながら会話をすすめます。
また、一度の質問で本心をすべてオープンにできる人は滅多にいません。
質問力の高い人は同じ趣旨の質問を何度も繰り返し、相談者の本音を導いていきます。
例えば、「何がしたいですか?」に答えがない時は「何が好きですが?」と、いったようにニュアンスを変え欲求を探ります。
相手の欲求や必要性に通じる質問を繰り返し、耳を傾け“自覚”を促します。
③聞く・整理する・共感する・褒める(自信と承認)
相談者が自身について理解を深めるまで、カウンセラーは一貫して話を寄り添い・受容する姿勢を保っています。
相談者が自分でも自覚していない「価値や問題」に自分自身で気づくまで、会話が混乱しないように要点を共有し、整理しながら理解をすすめます。
また相談者が自分の欲求や長所に気付いたときは、関心を表現し、応援し、称賛します。
相談者は目の前の問題を解決できるかどうか・・・という不安を抱えています。
賢いカウンセラーは聞き役となってそうした不安(感情)の解消を手伝うとともに、その人が持っている価値、武器を見極め、強みを強調します。そうすることで自信を持ってその先の一歩を踏み出せるよう手助けします。
また、こうした情報は過去の経歴などからも読み取ることができます。
例えば、転職経験が多い人にとってはそうした経歴をマイナスに感じているかもしれません。
しかし、別の見方をすれば「行動力があり、多くの経験をし、対応力がある」といった長所も伺えます。
そうした事柄をあえて客観的な立場で伝えることで、相談者の自信を促します。
④提案(可能性・選択肢)
相談者が持っているニーズを掘り下げ、整理したら、問題に対する改善策の提案を始めます。
ただし「義務」ではなく、「可能性や選択肢」としての提案です。
例えば、相談者が「職業安定所の求人情報だけを見て求人が見つけられないと考えている(視野が狭くなっている)」と感じたら「ハローワークインターネットサービス以外の求人サイトを勧める」といった具合にシンプルだけど、可能性を感じる提案を行います。
以外なことに当事者はどうすればいいか、方法はないかと闇雲になり固定観念や思い込みで視野を狭めてしまっていることがあります。
深く迷うほど、今ある手段や確信に固執するといったジレンマを抱えることも多々あります。
重要なのは具体的で優れた解決策ではなく「本質的な課題」に向き合い、可能性を示唆していることです。
「ないではなく、“ある”」へ、相談者が見えていない部分に光を当てて、新たな選択肢を導きます。
⑤意思決定
優秀なカウンセラーは課題を整理し、選択肢を提案したら、相談者の意志に沿って、自らの意志で行動ができるよう意思決定を促します。
「今やれることや、できること」について最後は相談者が自らの意志に沿って決断をすることが重要です。
人が強制することや選択したことに、人は責任を持ちません。自分を活かすため、自分自身との約束を、自らの意志で明言する機会を設けます。
まとめ
やる気を引き出すコミュニケーション
- 動機(課題)を明確にする
- 自信をつける、促す
- 解決策を導く
- 自分で決める
やる気を引き出すコミュニケーションとは、これら一連の要素に自ら気づくために、意図的に相談者の意図や情報を共有し、整理していく作業です。
問題が明確になり、やりたいことがわかる、自信がつく、解決策が見えている。行動を起こすには十分なピースが揃っています。
単に解決策を提案するのではなく、自ら答えを導けるよう促すという意味では「コーチング」という技術に近いものです。
批判や敵意は相談者を遠ざける行為になることもあります。寄り添い、理解することは相談者の“居場所をつくる”ことにつながるかもしれません。
コミュニケーションのポイント
- 話を聞く
- 共感する
- 理解を示す
- 批判をしない
- 要点(目的、長所、本心)を整理する